事業が順調で売上が拡大中の場合、運転資金が不足してしまうリスクが高まります。
「売上が増えているのなら、反対にお金が増えるのではないか?」
このように疑問を持たれた方も多いでしょう。
長期的には手元のお金は増えるかもしれません。
しかし事業活動に必要な運転資金が増えるため、資金繰りに影響が出てしまう可能性があるのです。
なぜ売上が増えると資金繰りが悪くなるかというと、売掛金、棚卸資産、買掛金などの「回転期間」に関係があります。
この記事では、売上が増加傾向にある会社で起こりうる資金不足の原因と、資金繰り悪化を防止するための対策について、分かりやすく解説します。
成長中の会社や今後拡大を見据えている会社にとって大切なお話ですので、ぜひ参考にしてくださいね。
売上増加で資金不足が起こる原因
季節変動や特需によって売上が急増している会社では、資金繰りが悪化してしまう可能性が高まります。
資金繰りが悪化してしまう原因は、売上の増加によって必要運転資金も増加するためです。
必要運転資金とは、会社が事業活動を行なううえでの原動力となるお金のことで、この必要運転資金が枯渇してしまうと事業を回すことができなくなってしまいます。
- 運転資金とは?
- 商品の仕入れや毎月の支払いなど、会社の事業活動を維持するために必要な資金のこと。
必要運転資金が増加する原因として、「回転期間」という考え方があります。
回転期間とは?
回転期間とは、売上債権、在庫(棚卸資産)、支払債務がお金に変わるまでの期間のことで、それぞれの回転期間は次のような期間をいいます。
- 売上債権・棚卸資産・支払債務の回転期間とは?
- ・売上債権・・・販売代金の売掛金・受取手形が回収(入金)されるまでの期間
・棚卸資産・・・仕入れた商品が売れるまでの期間
・支払債務・・・仕入・外注代金の買掛金・支払手形のお金を支払うまでの期間
売上債権、棚卸資産の回転期間が長ければ長いほど、お金が増えるまでの期間が長くなるため、資金繰りは悪くなりやすいです。
そのため、資金繰りの面では売上債権・棚卸資産の回転期間が短い方が有利です。
また支払債務の回転期間は、長ければ長いほどお金が減るまでの時間が長くなるため、長く資金を手元に確保しておくことができます。
そのため、支払債務は回転期間が長い方が資金繰りで有利になります。
それぞれの金額を売上高で割ることで、次のように回転期間を計算することができます。
- 回転期間の計算式とは?
- ・売上債権・・・ 売上債権の額 ÷ 売上高
・棚卸資産・・・ 棚卸資産の額 ÷ 売上高
・仕入債務・・・ 仕入債務の額 ÷ 売上高
なお、必要運転資金を計算する場合には、回転期間月数を用います。
回転期間月数は、回転期間の計算式の売上高を平均月商に変えることで求めることができます。
- 月商ベースの回転期間の計算式とは?
- ・売上債権・・・ 売上債権の額 ÷ 売上高(平均月商)
・棚卸資産・・・ 棚卸資産の額 ÷ 売上高(平均月商)
・仕入債務・・・ 仕入債務の額 ÷ 売上高(平均月商)
例えば、年間売上高3,000万円(平均月商250万円)、売掛金が360万円、在庫が200万円、買掛金が250万円の会社の回転期間は次のようになります。
・売上債権・・・360万円÷250万円=1.44ヶ月
・棚卸資産・・・200万円÷250万円=0.8ヶ月
・支払債務・・・250万円÷250万円=1ヶ月
つまり売上債権がお金に変わるまでには、販売してから平均で1.44ヶ月かかるということを意味しています。
棚卸資産は在庫が売れるまで仕入から平均0.8ヶ月、支払債務は代金の支払までに平均1ヶ月かかっているということです。
売上が増えても回転期間は変わらない
取引内容が変わらない状態で売上が急増すると、売掛金の回転期間は変わらないため、売掛金も同様に増えます。
例えば、先ほどと同じく年間売上高3,000万円(平均月商250万円)、売掛金が360万円、在庫が200万円、買掛金が250万円の会社で見てみます。
売掛金の回転期間は1.44ヶ月でした。
つまり月商250万円の状態であれば、月商の1.44か月分である360万円が売掛金として残っている状態です。
もし月商が売上急増によって2倍の500万円になった場合、回転期間1.44ヶ月は変わらないため、売掛金が720万円(=500万円×1.44)になります。
このように売上が増加しても回転期間が変わらないことから、必要な運転資金が増加してしまい、資金繰りが悪化してしまうのです。
必要運転資金は次のように計算することができます。
- 運転資金の計算式とは?
- 運転資金= 売上債権(売掛金、受取手形)+ 在庫 − 支払債務(買掛金、支払手形)
事例の会社の回転期間を用いて、月商250万円の場合と月商500万円の場合で必要運転資金がどのように変わるのか見ていきましょう。
(事例)
・売上債権の回転期間=1.44ヶ月
・棚卸資産の回転期間=0.8ヶ月
・支払債務の回転期間=1ヶ月
◆月商250万円の場合
売掛金 ・・・250万円×1.44ヶ月=360万円
棚卸資産・・・250万円×0.8ヶ月=200万円
支払債務・・・250万円×1ヶ月=250万円
必要運転資金→360万円+200万円-250万円=310万円
◆月商500万円の場合
売掛金 ・・・500万円×1.44ヶ月=720万円
棚卸資産・・・500万円×0.8ヶ月=400万円
支払債務・・・500万円×1ヶ月=500万円
必要運転資金→720万円+400万円-500万円=620万円(必要運転資金が2倍に増加)
月商250万円では運転資金は310万円でしたが、月商が500万円になると運転資金は620万円に増加しました。
つまり月商が倍になると、必要運転資金も同じく倍になることが分かります。
このように売上急増に伴って必要運転資金も急増することが原因で、成長中の会社で資金繰りが悪化してしまうのです。
また売上拡大時において、取引先の選定はとても大切です。
売上を増加させるために売掛金の回収期間が長い取引先を開拓すると、売掛金の回転期間はさらに長くなります。
経費の支払い条件(支払サイトが短い、現金払いなど)が悪い業者との取引が増えると、支払債務の回転期間は短くなります。
取引先次第でさらに資金繰りの悪化を招きますので、取引先を選ぶ際には資金繰りで無理がない回転期間であるかを確認して取引するようにしましょう。
資金をショートさせない対策
資金繰り悪化を恐れて売上を増やすことができないと会社は成長することができません。
事業を継続させるために、売上の増加は欠かせません。
そこで、売上増加による資金ショートを防止するため、対策を事前に立てておくようにしましょう。
回転期間を改善する
売上の急増によって必要運転資金が増加することが原因で、会社の資金繰りが悪化するということをお伝えしました。
この根本には、売上が増えても回転期間が変わらないため、売上が増加した分の運転資金が増加するということがあります。
そのため、売掛金、棚卸資産、買掛金のいずれかの回転期間を改善することできれば、必要運転資金の増加を防止することが可能です。
また先ほどの会社の事例で見てみましょう。
・売上債権の回転期間=1.44ヶ月
・棚卸資産の回転期間=0.8ヶ月
・支払債務の回転期間=1ヶ月
月商が500万円に増加した場合の運転資金は、下記のようになりました。
(月商500万円に増加した場合の運転資金)
売掛金 ・・・500万円×1.44ヶ月=720万円
棚卸資産・・・500万円×0.8ヶ月=400万円
支払債務・・・500万円×1ヶ月=500万円
必要運転資金→720万円+400万円-500万円=620万円
例えば、取引先との交渉で売掛金の回収期間を1.44ヶ月から1ヶ月まで短くすることができれば、必要運転資金は下記のようになります。
(売掛金の回転期間を1.44→1か月に改善)
売掛金 ・・・500万円×1ヶ月=500万円
棚卸資産・・・500万円×0.8ヶ月=400万円
支払債務・・・500万円×1ヶ月=500万円
必要運転資金→500万円+400万円-500万円=400万円
売掛金の回転期間を改善することで、必要運転資金を620万円→400万円まで削減することができました。
しかし売掛金の回収サイトを大幅に短くするのは難しいでしょう。
売掛金だけでなく、棚卸資産、買掛金の回転期間を改善することでも必要運転資金を減らすことができます。
例えば、事例の会社が営業努力によって下記のように回転期間を改善できたとしたら、必要運転資金がどう変化するか見てみましょう。
・売上債権の回転期間=1.44ヶ月⇒1.3ヶ月
・棚卸資産の回転期間=0.8ヶ月⇒0.7ヶ月
・支払債務の回転期間=1ヶ月⇒1.1ヶ月
(全体的に回転期間を0.1ヶ月改善)
売掛金 ・・・500万円×1.34ヶ月=670万円
棚卸資産・・・500万円×0.7ヶ月=350万円
支払債務・・・500万円×1.1ヶ月=550万円
必要運転資金→670万円+350万円-550万円=470万円
それぞれの回転期間を0.1ヶ月ずつ改善するだけでも、必要運転資金を620万円→470万円まで減らすことができました。
資金繰りは「お金の入りは早く、お金の出は遅く」を意識することで改善できます。
もしあなたの会社が売上が増加傾向にあれば、売上を追うだけでなく、回転期間の改善を考慮した取引を行なうことで資金ショートを防止することができます。
融資で資金調達する
回転期間の改善が難しい場合には、金融機関からの融資を受けるようにしましょう。
必要運転資金の増加によって、どれだけ資金不足が起こるかを計算することができました。
その資金不足となる金額を融資で事前に準備しておくことで、いざ売上が急増したときの資金ショートを防止することができます。
実際に資金ショートが起こってからでは、目の前のことで精一杯になって融資まで手が回らないかもしれません。
また融資は申込から審査・実行まで一定期間がかかりますので、お金が必要なときまでに融資が間に合わない可能性があります。
そのため、現在の現預金残高から資金ショートのリスクが少しでもあるのであれば、念には念を入れて事前に融資を受けておくことをおすすめします。
まとめ
この記事では、売上の急増によって起こりうる資金ショートの原因とその対策について解説しました。
売上が急増している状態では、経営者や従業員の作業も増加して多忙になるため、資金繰りの悪化に気付けない可能性があります。
そして気付いたときには手遅れとなっているかもしれません。
中小企業の経営において、最も大事なものはお金です。
お金がなくなると会社は存続することができません。
そうなってしまわないためにも、万全な状態で備えておきましょう。
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